借りパク

今から約30年前の話。
私はビルメン業界で働いていました。現場責任者として渋谷の現場を統括していました。
その現場の駐車場管理の夜勤スタッフに4つ年上のTさんがいました。持病をお持ちで健康にはあまり恵まれていなかったですが、とても人当たりの良いかたでした。
二人ともギターを弾いていたことから意気投合しよく雑談していました。
フライングVというギターがあります。当時で言えばランディローズやマイケルシェンカーなどが使用していたVの字になっているギターです。
Tさんが所有しており、私は弾いたことがなかったことから「貸してあげようか?」と、そんな簡単な経緯だったと記憶しています。
借りてすぐに私は現場移動になってしまい、酷い労働環境から心身を壊し退職しました。
他の社員から「Tさんがギターを返して欲しいって言っている」と連絡が来ましたが体調が悪いので待ってくれとお願いするとTさんから「しばらく持っていて良い」と返事があったそうです。体調が戻ればご自宅までお返しにうかがうつもりでいました。
しばらく静養し、そろそろ返さないと と思った時には連絡先を失くしていました。
会社の後輩に聞けばよかったのですが、退職した理由が理由だったので連絡しづらくとうとう「借りパク」してしまったのです。
ずっと心にわだかまりが有り、ギターは弾かずにスタンドに立てたまま、見るたびにTさんに申し訳ない気持ちになっていました。

そうして30年経ったいま、引っ越しの為に荷物をまとめているとTさんの連絡先が出てきたのです。
すぐには電話できませんでした。そもそも繋がるのか。相当怒っているだろうとも思いましたし。
ですがTさんにまず謝罪したいという思いが勝ち、昨日電話をしました。
繋がりました。
お母さまが電話に出ました。
私が事情を説明して「Tさんはいらっしゃいますか?」と言ったところ、
「30年前に亡くなりました」と。

言葉をつなぐことが難しかったのですが、お母さまに謝罪しました。
酷い後悔で心がいっぱいになっていました。
お母さまは「そのギターは息子だと思って弾いてください」と。
私は「申し訳ありません。ありがとうございます」と言うのが精いっぱいでしたが、冷静になった今思えばお母さまの言った意味がちょっと・・・
お母さま。突然電話をしまして申し訳ありませんでした。

そのギターは買えば2~3万です。いわゆるノンブランドのものでステージで弾くというよりはギタリストの部屋の見栄えがよくなるといった感じかと。

Tさん、本当に申し訳ありませんでした。
私がリペアして必ずスタジオで弾きますから許してください。。
Tさん安らかに。

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2024年1月9日

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